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2004年11月26日

icon鞄の中味、頭の中味

 このコンピュータで、私のような耄碌爺に日記を書く他に何ができましょうか。田村師匠が来訪した折、そんなことを尋ねる。
「欲が出てきましたか。そりゃ結構なことです。今どきのコンピュータは家庭用のものでも随分といろいろなことができるものですよ。実際、私は音楽も映像も作っていますし」
 私は、ですな、インターネットの日記にですね、写真を物したいのでありますよ。文字だけってのも、何だか物足りない。というのも、まあ、そりゃ、私の文章が稚拙だから文字だけでは楽しめるようなものを書けないだけなんでしょうけれどね。
「写真ですか、そりゃよござんすね。近頃はなかなか気の利いたデジタル・カメラがありますから、何か一つ見繕っておきましょう。デジカメてぇものは銀塩のカメラなんぞより気楽なものです。すぐにお使いになれましょう」いつものように、清かに響く師匠の声音。ついでに、コンピュータに絵を描く道具も揃えていただけると幸いである旨、申し添える。
「お安いご用ですとも。二、三日いただけますか」

 姿形もなかなかにうるわしいこの青年、普段は何をやっているものやらよくわからないけれど、青魚をつまみながら杯を傾ける姿など、何やら、時代劇に登場する、涼し気な若侍を彷彿とさせるところがなくもない。もっとも、足元の鞄にはコンピュータや携帯電話、音楽をどうにかする小さな機械などなどと、時代劇というよりは近未来、まさにデジタル社会の申し子である彼である。
「鞄の中味は電化一辺倒ですか」と尋ねると「いやいやそんなことはありませんよ」と中からあれこれ取り出して見せる。なるほど、手帖が数冊、本が数冊、二本差しのペンケースには銀色の萬年筆と鉛筆。「アイディアは手書きでメモするのです」と手帖の一つを見せてくれる。表紙には『プレス工場』と丁寧な装飾性の強いレタリングで記されている。ぱらぱらと繰ってみる。小鳥の絵が描かれていて、その横に「コゲラが木をつつく」いう文字が書かれている。「目蒲線の線路のリズム」「雨の日に君の家の前の歩道橋の上でレコーディングします」「活字乱舞」などなど、判然としないメモが並ぶ。絵のような記号のようなものもたくさん描かれている。それらは一体何を意味するのだろう。狐に撮まれたような、顔をしていたのだろうか。「鞄の中味は見られても頭の中味は見られませんものね」ふふふと微笑む。

 田村師匠という人が何を考える何者なのか、ますますわからなくなりました。

投稿者 nasuhiko : 2004年11月26日 00:00

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